ここで少し、
私山野真一についてお話しさせて下さい。
数年ほど前に、
木造一般住宅のご相談をいただき、
私が担当させて頂いたのですが...
その方はMさんと言って、
もう15年以上も前にログハウスの建築をご依頼頂いた、
言わばリピーターのお客さんです。
「今自分たち夫婦が住んでいる母屋を、
代がえの為に長男に譲り渡したい」
との事で、
新たに自分たちの住む住宅の相談をいただきました。
今でも忘れない、
真冬の寒さも少し和らぎ始めた3月頃の春先に、
最初に相談がありました。
建築時期に関しても特に急ぐこともなく、
プランニング打合せと図面作成も順調に進んでいました。
(いや、むしろじっくりと時間を掛けて進んでいた様に思います。)
「どんな感じがいいかな?」
「薪ストーブは必ずほしいね」
「可能な限り合板など使わず、自然素材を使ってほしい。」
他...などなど。
打合せするたびに新しい新居でのイメージを、
どんどんと膨らませていきました。
季節もすっかり春になり、
梅雨に差しかかろうとした、
雨がまだ少し肌寒い6月頃に、
Mさんご主人から一本の電話が鳴りました。
内容は、
「ちょっと急がなくてはならなくなりました。」
と理由を語ることもなく、
それまで気にしていなかった工期について、
この時初めて気にした様子でした。
設計プランも予算も確定し、
残暑厳しい盆明けに、
予定していたよりも早めにご契約する事になり...
9月下旬の建て方工事に向けて、
地盤調査、基礎工事、各材量の発注手配と、
一気に着工していきました。
工事も順調に進み、
定期的にMさんご夫婦も建築現場へ幾度となく訪れ、
お二人の待望のお家が出来上がって行くさまに、
とても感激している様子でした。
と同時に、
私自身、Mさんご主人の様子に、
会うたびに違和感を感じずにはいられませんでした。
会うたびに、
様子がどんどんと...
どんどんと...
そして、
工事途中のある日、
打合せの為にMさん宅へお邪魔した時のこと...
Mさんご主人が余名数ヶ月である事を、
この時初めて知らされました。
プランニングの打合せを行っていた数ヶ月前には、
全く必要のなかった杖をつき、
やがて自身ひとりで歩くのもつらくなり、
最後には現場に来ても、
奥さんの運転する車から下りることすらも出来ない、
大変な状態にまでなっていました。
工事も順調に進んではいましたが、
現場で作業する職人たちも、
施主であるMさんご主人の異変に、
気付かないハズはない状態にまでなっていました。
Mさん宅の建築工事に関わる
職人さん、各業者さんに事情を説明すると、
それまで2人で作業していた大工さんも、
人数を増やして5人で作業してくれたり、
建築材料の納品ではメーカーと掛け合って、
通常納期より一週間も早めて頂いたりと...
そんな皆の協力があって、
予定よりも早く12月初旬で完成し、
Mさんへお引き渡しする事が出来ました。
ただ、
この時Mさんご主人は体調が悪化して、
数日前に病院へ入院したとの事で、
奥様と息子さんお二人、
そしてお孫さんがお引き渡しに立ち会ってくれました。
それから一週間が経ったある日、
事務所に奥様から電話が掛かってきました。
Mさんご主人が亡くなったと...
完成引渡の時に入院していた為、
新居にはもちろん住むことが出来なかったのではないかと、
一瞬、頭をよぎりました。
しかし、お引き渡しして丁度一週間、
亡くなる前日の夜に、
新居が完成することをずっと楽しみにしていたご主人のキモチを、
そのそばで見守ってきた奥さんが気を利かせて、
お医者さんに了解のもと、
ヘルパーさんにご主人の新居への移動を介助してもらったそうで、
待ちこがれた新居にたった一晩だけ住むことが出来たそうです。
その晩には、
打合せの時から楽しみにしていた薪ストーブに火入れして、
炎の揺らめきをずっと見ていたそうです。
次の日の朝、
容態が急変し病院へと戻り
息を引き取ったそうです。
Mさんとは、
これからもっと深くお付き合いしていくつもりでしたが、
こんな経験をしたからこそ、
家づくりは一生に一度...
そんな風に考えて、
これから家づくりをお手伝いしていくお客さんに、
一棟一棟心を込めてお手伝い出来たら...
今まで以上に、
特にそう思うようになりました。
そして...
後日、
改めて奥様やそのご家族にお会いした時には、
「本当に立派なお家を建ててくれてありがとう」
とお会いするたびに何度も何度も、
感謝の言葉を頂ける家づくりができました。
Mさんご主人たっての希望で植えた庭の「桂」の樹にも葉がつき、
このMさん宅へ訪れるたびに、
とても感慨深い家づくりとなりました。